Pythonのライブラリ「Chainer」とその後発の「PyTorch」とは?活用方法を紹介
最終更新日: 2026年8月7日
本記事で紹介する「Chainer」は、開発元のPreferred Networks(PFN)が2019年12月にメジャーアップデートの終了を発表し、その後のバグフィックス・メンテナンスフェーズを経て、2022年12月にメンテナンスも完全に終了したレガシーのディープラーニングフレームワークです。PFN自身も後継として「PyTorch」への移行を推奨しており、これから新たにディープラーニングを学ぶ・開発する場合は、ChainerではなくPyTorchの利用を強く推奨します。本記事はChainerの歴史的な位置づけを正しく解説したうえで、現在主流であるPyTorchの特徴・活用方法を紹介する内容として構成しています。
2020年から始まったコロナ禍によって様々な企業がリモートワーク・テレワークを導入し急速なデジタル化を余儀なくされ、思わぬ形でIT業界の転換期とも言える状況が訪れることとなりました。さらに2023年に入ってChatGPTをはじめとしたAI(人工知能)を使ったツールやサービスが大きな注目を浴び、AIや機械学習・ディープラーニングといった分野は発展途上であり、それらに対応できる人材も不足している状況です。この記事ではAIや機械学習・ディープラーニング分野で利用されることの多いプログラミング言語「Python」のライブラリ「Chainer」「PyTorch」について紹介します。
Pythonはどんな言語か
使用者が一定数いるものだけでも250種類以上あると言われているプログラミング言語の一つに「Python(パイソン)」があり、1991年にオランダで開発・リリースされました。JavaやJavaScriptといった現在人気の高い言語より前から存在し、すでに30年以上の歴史を持つ言語で、その後に開発されたRubyやSwift、Scalaといった言語にも影響を与えています。近年は小学校の授業にプログラミングが導入されていますが、その際にPythonが学習素材となっていることがあります。
Pythonはシンプルな構文・少ない記述でプログラミングできるという点が大きな特徴となっており、初めてプログラミングを学ぶ人も理解しやすい言語です。初心者が理解しやすいというと複雑なシステムを構築できないように思われるかもしれませんが、Pythonは統計処理や数値計算が可能な機能を多く備えているためビッグデータ分析やAI・機械学習といった近年需要が高まっている分野の開発が可能となっており、実際に多くのプロジェクトで利用されています。
分析を得意とする言語として「R言語」もありますが、Pythonの場合は特に機械学習や今回取り上げるディープラーニングの分野に向いていて、R言語はデータを処理・数値の可視化をするデータサイエンスに向いているというようにそれぞれ異なる特徴を持っています。Pythonに比べるとR言語はやや仕組みが複雑で速度はPythonの方が早いという違いがあるため、シンプルかつスピーディーに開発を進めたいという場合はPythonがおすすめとなります。一方で長期的な研究や新技術が必要となる「R&D(Research and Development)」という分野のシステム開発を行う場合はR言語がおすすめです。
Pythonのもう一つの特徴としては、言語自体の歴史が長いこともあって今回取り上げるようなライブラリ・フレームワークが豊富に開発されているという点が挙げられます。これらを利用することで自分でコーディングを行うプログラムが大幅に軽減されるため、全体として開発効率を上げることが可能となります。ライブラリ・フレームワーク独自の仕様があるので、Pythonの学習とは別に少なからずそれらの学習も必要となることを頭に入れておかなければなりません。
Pythonが適したシステムとしては、機械学習が可能なロボットの開発・業務の自動化効率化ツール・Webスクレイピング・ExcelのVBA代替・Webアプリ・デスクトップアプリ・ブロックチェーン技術の開発など非常に幅広い分野があります。Pythonの知識・スキルを習得することでAIエンジニア・機械学習エンジニア・データサイエンティスト・Webエンジニアとして活躍できる可能性があります。
Pythonの独自の仕様「オフサイドルール」について簡単に解説します。ルールとしては特に複雑なものではなく、インデント(字下げ)を正しく利用してコーディングするというものです。プログラムの場合は頭1マス空けることをインデントと呼び、インデントを付けることで可読性を増すことができます。またPythonでは「{ }」等の記号の記述の省略が可能となります。ただしルールとして定められているため、記号とインデントのどちらも使わずにコーディングをしてしまうとエラーとなるので注意が必要です。
ディープラーニングとは?
ディープラーニングは、人間の脳の仕組みである「ニューロン」をニューラルネットワークとしてモデル化し、人間のような思考回路や行動を実現させようとする仕組みです。身近なスマートフォンやパソコン・スマートスピーカー・カーナビ等の音声認識、自販機等での顔認証、会議の議事録システム、ショッピングサイト等がその代表例と言えます。
ディープラーニングは機械学習のカテゴリーに含まれる技術の一つです。機械学習を端的に定義すると「人間の指示を必要とせず自ら考えて答えを導き出す技術」のことです。この機械学習を含んでいる大カテゴリーがAI(人工知能)です。3つの関係性を改めてまとめると「AI(人工知能)>機械学習>ディープラーニング」となります。
AIは人間の心と同じ機能を持つかという点を基準に「弱いAI」「強いAI」の2つに分けることができます。「弱いAI」とは単なるツールとしてのAIのことを表し、膨大なデータを用いた過去の学習を基に答えを導き出すチャットボット等が該当します。一方の「強いAI」とは、いわばアンドロイド・ヒューマノイドロボットと呼ばれるようなSFに登場するロボットのことを表し、現時点では概念が存在しているだけで実現できている状態ではありません。弱いAIも十分に有用ですが、人間と同じで成長・学習が欠かせないということを覚えておきましょう。
機械学習は一般的に「教師あり学習」「教師なし学習」「強化学習」という3つの学習方法に大きく分けられます。「教師あり学習」はあらかじめ与えられた正解データを基として分析を行い答えを出す方法です。「教師なし学習」は正解データが与えられておらず膨大なデータの中から自ら特徴や規則性を探し出す方法です。「強化学習」は機械学習を行う過程で何が正解で何が不正解かを教えて学習能力を高めていく方法です。
初期のディープラーニングは画像認識システムで利用されることがメインの仕組みでしたが、音声認識や文字認識も可能で自然言語処理も可能となっています。さらに異常検知も可能で、工場における機器の検品や交通インフラの故障検知、株価・為替等の市場動向予測、小売業における売り上げ予測などにも活用できます。
ライブラリ「Chainer(チェイナー)」と「PyTorch(パイトーチ)」について
ライブラリとは、ある特定の機能を満たすあらかじめ用意されたプログラムの塊のことを指します。ライブラリを利用することで効率的にスピードを上げて開発を進めることができるようになります。
Chainerは2015年に日本のスタートアップ企業「PFN(Preferred Networks)」が開発しました。日本語で作られたドキュメントが豊富だったことも、当時日本のエンジニアにとって大きなメリットとなっていました。
Chainerの開発の歴史を振り返ると、PFNは2019年12月5日に「v7が最後のメジャーリリースとなり、以降の開発はバグフィックスとメンテナンスのみに限定する」ことを発表しました。その後2022年12月をもってPFNはChainerのメンテナンスも完全に終了し、公式にPyTorchへの全面移行を推奨する形で開発の歴史に幕を下ろしています。現時点でChainerは事実上のレガシーフレームワークであり、新規にディープラーニングのプロジェクトを始める場合にChainerを選ぶ理由はほぼありません。
とはいえChainerはPyTorchをはじめとする現在主流のディープラーニングフレームワークの土台となった重要な技術的功績を残しています。Chainerはオープンソースのライブラリで、畳み込みニューラルネットワーク・リカレントニューラルネットワーク・フィードフォワードニューラルネットワークの3つに対応していました。
Chainerの大きな特徴は計算の実行と同時にニューラルネットワークの構造を定義する「Define by Run」方式を採用した先駆けのライブラリだったことです。Define by Runは動的にネットワークを構築するため、データ構造に変更を加える等の再構築やデバッグが簡単にできるという特長があります。
PFNが後継として開発の軸足を移した「PyTorch(Facebook、現Meta開発)」には、Chainerが先駆けとなったこのDefine by Run方式が採用されています。PyTorchはTorch(トーチ)がベースとなっており、2016年のリリース以降Meta(旧Facebook)を中心に現在も継続的にアップデートが行われており、活発なコミュニティによって最新の情報や技術を入手しやすい状況です。近年のPyTorchでは、モデルの実行速度を大幅に高速化できる「torch.compile」機能が追加されるなど機能強化が続けられています。
AWS・GCP・Microsoft Azureといった主要クラウドサービスでも標準的にサポートされており、PythonだけではなくC++での利用も可能なライブラリとなっています。なおPyTorchはChainerと同様に、高速な画像処理に特化したプロセッサ「GPU(Graphics Processing Unit)」に対応しており、CUDA(クーダ)という汎用の並列計算が可能なソフトウェアの利用が可能となっています。
人気の「TensorFlow(テンソルフロー)」について
Googleが開発・利用していたものを汎用的に利用可能なオープンソースとして開発し直したライブラリで、機械学習モデルの開発・トレーニングに活用できます。PythonだけではなくC・C++・Java・JavaScriptといった言語でも利用可能な他、各種OSにも対応しており、モバイル・IoT向けのTensorFlow Lite(iOS・Androidに対応)も別に提供されています。現在はPyTorchとTensorFlowが主要なディープラーニングフレームワークの二強と言われており、研究分野ではPyTorch・本番環境への実装ではTensorFlowが選ばれる傾向があるとされることもありますが、両者ともに機能面での差は年々縮まってきています。
主要ディープラーニングフレームワーク比較
| フレームワーク | 開発元 | 現在の状況 | 主な用途・強み |
|---|---|---|---|
| Chainer | PFN(日本) | 2022年12月にメンテナンス完全終了(レガシー) | PyTorchに先駆けたDefine by Run方式・日本語ドキュメント豊富 |
| PyTorch | Meta(米国) | 現在も活発に開発継続・推奨 | 研究・学習向け・直感的なDefine by Run・GPU対応 |
| TensorFlow | Google(米国) | 現在も活発に開発継続 | 本番環境への実装実績・モバイル対応(TFLite)・多言語サポート |
よくある質問(FAQ)
まとめ:ChainerからPyTorchへ
- PythonはAI・機械学習・ディープラーニング分野で広く利用されるプログラミング言語で、豊富なライブラリ・フレームワークが強みである
- 「Chainer」は日本のPFNが開発した先駆的なライブラリだったが、2019年12月に開発終了を発表し、2022年12月にメンテナンスも完全終了したレガシーフレームワークである
- Chainerが採用した「Define by Run」方式は、後継の「PyTorch」に受け継がれている
- 現在ディープラーニングを新たに学ぶ・開発するのであれば、ChainerではなくPyTorch(または用途によってはTensorFlow)を選ぶのが実践的な選択肢である
- PyTorchは現在も活発に開発が続いており、torch.compileなど実行速度を高速化する機能追加も進んでいる
Chainerは日本発のライブラリとして高い技術的評価を得ていましたが、開発元の方針転換によりすでに歴史的な役割を終えています。一方でChainerが切り拓いた設計思想は後継のPyTorchに受け継がれており、現在ディープラーニングの学習・開発を始めるのであればPyTorchから着手するのがおすすめです。
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