自治体におけるデータ分析の活用~背景と導入事例~

最終更新日: 2026年8月7日

さまざまな業界においてデータのマーケティング活用が当たり前となっています。その中でも、データ分析によって大きな改善をもたらすことができると言われているのが、自治体です。本記事では、自治体におけるデータ分析の必要性と、福岡市・松江市の活用事例についてご紹介いたします。

自治体とは?

自治体と聞くと、市役所や区役所を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。法律上、「自治体」という言葉は存在しておらず、正式には「地方公共団体」といい、自治体は地方公共団体の通称です。今回は馴染み深い「自治体」という通称を用いて、解説を行っていきます。

自治体の定義

自治体とは、住民の福祉の推進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を担っています。つまり、都道府県や区市町村といった地域区分における、行政サービスの提供や事務を行う組織です。都道府県ならば知事、区市町村であれば区市町村長をリーダーとし、教育委員会や選挙管理委員会、会計課といったさまざまな執行機関で組織されています。これらの組織の活動や事務を取り行っているのが、市役所や区役所といった役所です。

自治体の仕事

自治体は、地域の住民が安全で快適に暮らせるような行政サービスの提供を行っています。ごみの収集や健康保険や年金の手続き、都市政策の決定といった幅広い役割を担っています。地域の住民のみならず、地域の企業や産業への支援も行います。住民の暮らしに関わる部門、健康福祉に関する部門、環境・まちづくりに関する部門、教育・文化・地域活動に関する部門、経済・産業に関する部門、災害や危機管理に関する部門、そして管理部門から成り立っています。

なぜ自治体でデータ分析が必要なのか

今やデータ分析は企業活動において大きなトレンドとなっていますが、自治体でもデータの利活用が総務省によって推進されています。推進の背景には、自治体が直面している課題やEBPM、住民サービスのパーソナル化などが挙げられます。

人手不足

日本の人口は年々減少傾向にあり、2050年には1億人以下になると予想されています。特に働き手といわれる生産年齢人口は5000万人ほどに減少し、さまざまな業界での人手不足が深刻化するでしょう。自治体における人手不足を予想し、少ない人員であっても行政サービスの提供を維持するためには、幅広い業務をより効率的に行う必要があります。

政策精度の向上

限られた資源や人員、予算を有効に活用するために、EBPM(Evidence-based Policy Making)が政府によって推進されています。EBPMとは、自治体や国の保有するデータを分析し、その合理的な根拠から、政策を立案することを指します。政策の有効性を高め、国民や地域住民からの信頼を確保することを目的としています。データ分析に基づいた政策立案によって、地域のニーズを正確にとらえることができ、かつ限られた資源や予算を適切に配分していくことができます。

住民サービスのパーソナル化

従来の行政サービスは、介護中の世帯に対する施策や低所得者に対する施策といった、大まかな枠組みを対象として取り組まれてきました。しかし、人々の生活がより多彩となったことを受けて、より詳細に人々の生活を分析し、それに適したサービスの提供が必要となっています。例えば、子育て中の世帯なら、共働きなのか、近くに親が住んでいるのか、周辺の保育施設の有無、世帯年収など、細やかな情報を把握することが、住民ひとりひとりのニーズに応じたサービスの立案・提供につながります。IT技術の進歩によって、コストや設備面での垣根も低くなったこともあり、自治体内のIT化推進も進められています。

自治体におけるデータ活用例

福岡県福岡市

福岡市では医療・介護関連のデータを分析し、地域医療や介護事業の立案に活用しています。同市は高齢化率が21%を超えた超高齢化社会になったことを受け、医療や介護をする側や関連事業者の負担が大きくなっています。これまで、自治体や病院、介護施設等で断片的に記録されていた膨大なデータを1つのシステムに集約し、そのデータをAIによって分析することで、地域のニーズや課題を可視化することが可能です。加えて、住民の出生から死亡までのデータを元に、医療費や介護費の現状分析やこれからの推計、介護認定状況といった相関分析まで行えます。これらのデータ分析の結果から、直面している課題以外にも中長期的な課題を把握することができるようになりました。また、分析結果や情報を家族や医療・介護従事者へ共有できるシステムを構築し、支える側の情報収集に関する負担の軽減にもつなげています。

島根県松江市

松江城や松江神社といった観光スポットを持つ松江市では、松江市に関する統計データや松江市の観光地や飲食店情報、そしてSNSデータの分析を行い、観光マーケティングに活用しています。観光に関するデータをAIによって収集、統合、変換を行い、分析者により分析が行われた後、企画立案者へ結果を提供します。例えば、集計されたイベント・観光情報と、人流解析サービスによって収集・解析された観光スポットの来場者数、年齢、動線といった情報を掛け合わせ、来場者の来場要因や予測を可能としました。企業や個人から得られたデータを細分化し、組み合わせることによって、施策立案や機会創出へ活用しています。

活用事例比較表

項目 福岡県福岡市 島根県松江市
課題背景 高齢化率21%超・医療介護負担の増大 観光マーケティングの高度化
活用データ 医療・介護・住民の出生〜死亡データ 統計・観光地情報・SNS・人流データ
AI・システムの役割 断片データを集約しAIで可視化・相関分析 データ収集・統合・変換→分析者が企画提供
分析成果 医療費推計・介護認定相関分析・中長期課題把握 来場要因分析・来場者予測・施策立案
波及効果 家族・介護従事者へのデータ共有で情報収集負担軽減 データ細分化・組み合わせで機会創出

よくある質問

Q. EBPMとは何ですか?
A. EBPM(Evidence-based Policy Making)は「証拠に基づく政策立案」のことです。勘や慣例ではなく、自治体や国が保有するデータを分析した客観的な根拠から政策を立案する手法です。日本では総務省・内閣官房が推進しており、限られた予算・人員をより効果的に使う政策設計が可能になります。
Q. 自治体のデータ分析で個人情報はどう扱われますか?
A. 個人情報保護法・地方公共団体個人情報保護条例に基づき、氏名などの直接識別情報は匿名化・仮名化した上で分析に使用されます。医療・介護データは特に取り扱いが厳しく、本人同意や行政目的の明確化が必要です。福岡市のように複数機関のデータを集約する場合も、各機関での匿名処理後に統合するアーキテクチャが採られています。
Q. 小規模な自治体でもデータ分析は導入できますか?
A. はい。総務省が提供するオープンデータや国勢調査データは無料で利用でき、BIツールも低コストで入手できます。実証実験・パイロット導入から始め、効果が確認できた後に本格展開する段階的アプローチが推奨されています。また、複数の自治体が連携してコストを分担する「広域データ活用」も有効な手段です。
Q. 自治体のデータ分析を担う人材はどのようなスキルが必要ですか?
A. 統計的知識(統計検定2級程度)、データ処理ツール(Excel・BIツール・SQL基礎)の操作スキルに加え、行政・地域課題への理解が重要です。技術面はベンダーや外部専門家と協力できるため、課題を正確に言語化し分析結果を政策へ落とし込む「データリテラシー」が特に自治体職員に求められています。

まとめ

  • 自治体は住民福祉の推進を担う地方公共団体であり、市役所・区役所はその行政機関として住民の暮らし全般を支える幅広い役割を持つ
  • 人口減少・人手不足を見据えた業務効率化、EBPMによる政策精度向上、住民サービスのパーソナル化という3つの理由からデータ分析の必要性が高まっている
  • 福岡市では医療・介護データをAIで集約・分析し、高齢化対策として医療費推計や介護認定相関分析・中長期課題把握を実現している
  • 松江市では観光統計・SNS・人流データを組み合わせて来場要因分析や来場者予測を行い、観光施策の立案・機会創出に活用している
  • 自治体はもともと大量の住民・地域データを保有しており、これを活用することで従来は見落としていたニーズや課題を発見できる可能性がある

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