プロジェクトマネージャーの必須知識『PMBOK』について

はじめに

IT業界で仕事をしていると『プロジェクト』という言葉を耳にする機会が増えると思います。『プロジェクト』とは、ある課題や目的に対して、チームを編成し、開始から終了までの計画を事前に立てた上で遂行していく一連の活動を指します。インフラ、開発問わず、こういったプロジェクトチームに所属して仕事をする機会も多いでしょう。筆者もかつてはインフラの構築・運用・保守のプロジェクトチームに所属していました。プロジェクトにおいて、チームのメンバーやスケジュール、コストなどを管理する指揮官にあたる重要な役割が『プロジェクトマネージャー』です。今回はプロジェクトマネージャーの役割やプロジェクトマネジメントの技法を体系的にまとめたPMBOKについてご紹介いたします。

プロジェクトマネージャーの役割

プロジェクトには当然納期があり、限られた予算の中で業務を遂行していかなければなりません。配置する人、使える予算、目的達成までのスケジュールやタスクや成果物の品質といったプロジェクトに関する管理業務の責任者がプロジェクトマネージャーです。プロジェクトマネージャーが行うべきプロジェクトマネジメントの技法を体系的にまとめたものとして、PMBOK(Project Management Body of Knowledge)があります。

PMBOK(Project Management Body of Knowledge)

PMBOK(Project Management Body of Knowledge)とは、米国のプロジェクトマネジメント協会がまとめたプロジェクトマネジメントの知識体系で、プロジェクトマネージャーが行うべきプロジェクトマネジメントの技法の国際標準となっています。従来のマネジメントは『QCD』と呼ばれるQuality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)の3つに着目した管理手法が一般的でしたが、PMBOKでは次の10個をもとに管理すべきであると示され、これらを知識エリアと呼んでいます。

  1. 統合マネジメント
  2. スコープマネジメント
  3. スケジュールマネジメント
  4. コストマネジメント
  5. 品質マネジメント
  6. 人的資源マネジメント
  7. コミュニケーションマネジメント
  8. リスクマネジメント
  9. 調達マネジメント
  10. ステークホルダーマネジメント

1.統合マネジメント

統合マネジメントは、プロジェクトの目的を定め、目的達成に向けてプロジェクト全体を管理・統一する役割があります。プロジェクトはスケジュールやコスト、人員の管理など様々な作業を並行して遂行していく必要があるため、プロジェクトマネージャーは、プロジェクトの立ち上げから終結までのすべてのフェーズにおいて、他9個の知識エリアをとりまとめ、分野ごとの連携を行い、マネジメントしていく必要があります。具体的な作業内容としては、プロジェクトの概要を記載し、立ち上げの承認を得るためのプロジェクト憲章の作成やプロジェクトの作業指揮・管理・コントロールがここにあたります。

2.スコープマネジメント

スコープマネジメントは、顧客満足度を高めるために、顧客のニーズにあったプロジェクトの最終成果物を明確にし、必要な作業範囲を管理する役割があります。プロジェクトマネージャーは、プロジェクトの計画や監視・コントロールフェーズにて、顧客からの要求内容を整理し、必要な作業を定義・コントロールしていきます。具体的な作業内容としては、顧客の要求事項の定義化やプロジェクト成果物から作業を細分化・階層化したWBS(Work Breakdown Structure)の作成、スコープの管理やコントロールがここにあたります。

3.スケジュールマネジメント

スケジュールマネジメントは、プロジェクトを期限内に完了させるために、スケジュール管理を行う役割があり、タイムマネジメントとも呼ばれます。プロジェクトマネージャーは、プロジェクトの計画や監視・コントロールフェーズにて、詳細なタスクを定義や作業順序や人員・物質資源の見積り、そこから全体スケジュールの作成やコントロールを行います。具体的な作業としては、スコープマネジメントで作成したWBSをもとに、詳細なタスクを割り出すアクティビティ定義や、定義したアクティビティの順序関係を明らかにし、作業の順序を設定するアクティビティ順序設定、全体スケジュールの作成・コントロールがここにあたります。

4.コストマネジメント

コストマネジメントは、プロジェクトを承認された予算内で完了させるため、必要なコストの見積りや予算の設定、コントロールを行う役割があります。プロジェクトマネージャーは、プロジェクトの計画や監視・コントロールフェーズにて、最終的な成果物から必要な資源(機器や人員)を洗い出し、それぞれに必要な金額を見積り、コントロールしていく必要があります。具体的な作業内容としては、タスクを完了されるために必要な資源の概算金額を算出するコスト見積りや、プロジェクト全体の予算から、各部門やタスクに配分し、コスト・ベースラインを作成すること、プロジェクトを監視し、予算を超えないようにコスト・ベースラインの調整を行うことがここにあたります。

5.品質マネジメント

品質マネジメントは、顧客のニーズを成果物として正確に形にするために、プロジェクトのプロセスや成果物の品質を管理する役割があります。プロジェクトマネージャーは、プロジェクトの計画や実行、監視・コントロールフェーズにて、成果物のみならずプロセスの段階から品質を管理し、問題が起こった際に原因と対策を考え、共有することで品質の向上を行っていく必要があります。具体的な作業内容としては、品質の定義を行い、方針や計画を作成する品質マネジメント計画や、親和図・アローダイヤグラム法といったQC7つ道具と言われる品質管理の手法を用いて、品質標準と運用基準を満たすためにプロセスの品質改善活動を支援することや、品質検査の対象となる成果物のパフォーマンスを測定することがここにあたります。

6.人的資源マネジメント

人的資源マネジメントは、プロジェクトの成功に必要なチームを組織するため、人員の計画や配置、管理や育成を行う役割があります。プロジェクトマネージャーは、プロジェクトの計画・実行フェーズにて、スケジュールマネジメントやコストマネジメントで洗い出された予算や資源の見積りを元に、各チームに適した人員を配置し、管理していく必要があります。また、最大のパフォーマンスを発揮するために、チームワークを強化していくこともプロジェクトマネージャーの役割です。具体的な作業内容としては、役割を明確化するRACIチャートを作成し、人的資源マネジメント計画書を作成すること、そこからチームを編成し、各人員のスキルやチームワークを強化してパフォーマンス高めること、チームの課題を解決しパフォーマンスを維持することがここにあたります。

7.コミュニケーションマネジメント

コミュニケーションマネジメントは、チームメンバーだけでなく、ステークホルダーも含むプロジェクトに関わる人員が必要とする情報を把握し、正確な情報伝達を行う役割があります。プロジェクトマネージャーは、プロジェクトの計画・実行、監視・コントロールフェーズにて、必要な情報を把握し、それにあった情報を伝えるだけでなく相手が正しく理解をしたかの確認までを行う必要があります。コミュニケーションは業務においてどんな段階においても重要な役割を果たします。適切な計画を立てるにも、問題を把握するにも、結果を伝えるにも、情報収集や情報伝達を行うためにはコミュニケーションは必須です。具体的な作業内容としては、ステークホルダーの情報ニーズを把握し、相互型やプッシュ型、プル型といったコミュニケーション手段を考え、コミュニケーションの取り組み方を決めていくコミュニケーション・マネジメント計画やツールやシステムを活用し情報の収集や配布、管理・コントロールを行うことがここにあたります。

8.リスクマネジメント

リスクマネジメントは、プロジェクトにおけるリスクを予防し、対処を行う役割があります。脅威になるリスクに対しては回避や軽減など対処が行われますが、リスクの中には好機になるリスクもあり、そのような場合は活用や強化といった対処が行われます。プロジェクトマネージャーは、プロジェクトの計画・監視・コントロールフェーズにて、リスクマネジメントの実行方法の設定や基準の確立、対応策の検討や実行・コントロールを行います。具体的な作業内容としては、各リスクの発生する確率や影響度を定義するリスクマネジメント計画の作成やプロジェクトにとってプラスになるリスクやマイナスになるリスクに対してその影響をうまく活かしたり、コントロールするための戦略を検討・実行することがここにあたります。

9.調達マネジメント

調達マネジメントは、プロジェクトの作業を遂行するために必要な機器やサービスを外部から調達する際の、契約や計画といった管理を行う役割があります。プロジェクトマネージャーは、プロジェクトの計画・監視・コントロール・終結フェーズにて、調達が必要になった時点で調達品目ごとに計画や納品物の進捗管理や検収、導入の実行やコントロール、契約の終結を行います。具体的な作業内容としては、プロジェクトマネジメント計画書などから必要な調達品目を明確にし内製するか外注するかを決め、外注する場合の調達の進め方を調達マネジメント計画書にまとめることや実行された契約のパフォーマンスを監視し必要な場合は変更と是正を行う調達コントロールなどがここにあたります。

10.ステークホルダーマネジメント

ステークホルダーマネジメントとは、プロジェクトに影響のあるステークホルダーを特定し影響度を分析した上で、プロジェクトの進行に大きな影響を及ぼすステークホルダーに対して、プロジェクトの意思決定や実行に関与してもらえるように働きかける役割があります。プロジェクトマネージャーは、プロジェクトの立ち上げ・計画・監視・コントロールフェーズにて、プロジェクトに関わる様々なステークホルダーをプロジェクトに巻き込むため、ステークホルダーマネジメントを実践する必要があります。具体的な作業内容としては、ステークホルダーそれぞれの権力と関心度を分析し、影響度を明確にすることや、プロジェクトを通してステークホルダーとコミュニケーションし、コミュニケーションマネジメント計画に基づいてステークホルダーとのコミュニケーションを行い、プロジェクトの成果物を通して、プロジェクトへの関与を強化することなどがここにあたります。

プロジェクトマネージャーは、これら10個の知識エリアをもとに管理業務を行うことがプロジェクトの成功のカギとなります。また、マネジメント知識はもちろん必須ですが、技術的な知識を持つことでより正確なマネジメントが行えるようになるでしょう。

おわりに

今回はプロジェクトマネージャーが行うべきPMBOKの各マネジメント内容についてご紹介いたしました。プロジェクトマネージャー関連の資格もありますが、資格より経験や知識によってプロジェクトマネージャーに就任する方が多くなっています。PMBOKはプロジェクトマネージャーとして必須の知識ですので、この機会にぜひ学習を進めてみてください。本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。ありがとうございました。