自治体におけるデータ分析の活用~背景と導入事例~

はじめに

さまざまな業界において、データのマーケティング活用が当たり前となっています。その中でもデータ分析において大きな改善をもたらすことができると言われているのは、自治体です。今回は、自治体におけるデータ分析の必要性と活用事例について紹介いたします。

自治体とは?

自治体と聞くと、市役所や区役所を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。法律上、『自治体』という言葉は存在しておらず、正式には『地方公共団体』といい、自治体は地方公共団体の通称です。今回は馴染み深い『自治体』という通称を用いて、解説を行っていきます。

自治体の定義

自治体とは、住民の福祉の推進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を担っています。つまり、都道府県や区市町村といった地域区分においての、行政サービスの提供や事務を行う組織です。都道府県ならば知事、区市町村であれば区市町村長をリーダーとし、教育委員会や選挙管理委員会、会計課といったさまざま執行機関で組織されています。これらの組織の活動や事務を取り行っているのが、市役所や区役所といった役所です。

自治体の仕事

自治体は、地域の住民が安全で快適に暮らせるような行政サービスの提供を行っています。ごみの収集や健康保険や年金の手続き、都市政策の決定といった幅広い役割を担っています。地域の住民のみならず、地域の企業や産業への支援も行います。住民の暮らしに関わる部門、健康福祉に関する部門、環境・まちづくりに関する部門、教育・文化・地域活動に関する部門、経済・産業に関する部門、災害や危機管理に関する部門、そして管理部門から成り立っています。

なぜ自治体でデータ分析が必要なのか

今やデータ分析は企業活動において大きなトレンドとなっていますが、自治体でもデータの利活用が総務省によって推進されています。推進の背景には、自治体が直面している課題やEBPM、住民サービスのパーソナル化などが挙げられます。

人手不足

日本の人口は年々減少傾向にあり、2050年には1億人以下になると予想されています。特に働き手といわれる生産年齢人口は5000万人ほどに減少し、さまざまな業界での人手不足が深刻化するでしょう。自治体における人手不足を予想し、少ない人員であっても行政サービスの提供を維持するためには、幅広い業務をより効率的に行う必要があります。

政策精度の向上

限られた資源や人員、予算を有効に活用するために、EBPM(Evidence-baced Policy Making)が政府によって推進されています。EBPMとは、自治体や国の保有するデータを分析し、その合理的な根拠から、政策を立案することを指します。政策の有効性を高め、国民や地域住民からの信頼を確保することを目的としています。データ分析に基づいた政策立案によって、地域のニーズを正確にとらえることができ、かつ限られた資源や予算を適切に配分していくことができます。

住民サービスのパーソナル化

従来の行政サービスは、介護中の世帯に対する施策や低所得者に対する施策といった、大まかな枠組みを対象として取り組まれてきました。しかし、人々の生活がより多彩となったことを受けて、より詳細に人々の生活を分析し、それに適したサービスの提供が必要となっています。例えば、子育て中の世帯なら、共働きなのか、近くに親が住んでいるのか、周辺の保育施設の有無、世帯年収など、細やかな情報を把握することが、住民ひとりひとりのニーズに応じたサービスの立案・提供につながります。IT技術の進歩によって、コストや設備面での垣根も低くなったこともあり、自治体内のIT化推進も進められています。

自治体におけるデータ活用例

福岡県福岡市

福岡市では医療・介護関連のデータを分析し、地域医療や介護事業の立案に活用しています。同市は高齢化率が21%を超えた超高齢化社会になったことを受け、医療や介護をする側や関連事業者の負担が大きくなっています。これまで、自治体や病院、介護施設等で断片的に記録されていた膨大なデータを1つのシステムに集約し、そのデータをAIによって分析することで、地域のニーズや課題を可視化することが可能です。加えて、住民の出生から死亡までのデータを元に、医療費や介護費の現状分析やこれからの推計、介護認定状況といった相関分析まで行えます。これらのデータ分析の結果から、直面している課題以外にも中長期的な課題を把握することができるようになりました。また、分析結果や情報を家族や医療・介護従事者へ共有できるシステムを構築し、支える側の情報収集に関する負担の軽減にもつなげています。

島根県松江市

松江城や松江神社といった観光スポットを持つ松江市では、松江市に関する統計データや松江市の観光地や飲食店情報、そしてSNSデータの分析を行い、観光マーケティングに活用しています。観光に関するデータをAIによって収集、統合、変換を行い、分析者により分析が行われた後、企画立案者へ結果を提供します。例えば、集計されたイベント・観光情報と、人流解析サービスによって収集・解析された観光スポットの来場者数、年齢、動線といった情報を掛け合わせ、来場者の来場要因や予測を可能としました。企業や個人から得られたデータを細分化し、組み合わせることによって、施策立案や機会創出へ活用しています。

おわりに

自治体におけるデータ分析の活用は、まだ導入や実証実験段階のものが多く、浸透しきれていないのが現状です。しかしながら、もともと大量の住民や地域データを保有する自治体においてデータを分析し活用することで、今まで見落としていた新しいニーズや機会を見つけることができるでしょう。ありがとうございました。