データ分析に基づくデータドリブン経営の事例

はじめに

ビッグデータを分析し、その結果に基づいて経営の判断を行う『データドリブン経営』が多くの分野で推進されています。これまでは、分析の手法などに注目が集まっていたが、現在では分析により判断を行うことのできる力や、データサイエンティストといった分析を専門とする人材に大きな注目が集まっています。勘・経験・度胸のKKD経営から、データやアルゴリズムといった数値による客観的判断に基づいたデータドリブン経営へと変貌を始めた今、データ分析によって得られる情報とデータドリブンによって成功した事例をご紹介いたします。

データ分析によって得られる情報

データ分析を行うにあたり、まず大切なのは『何が知りたいのか』を明確にしておくことです。例えば、『売上が伸びない』という経営課題に対して、『商品の魅力がない』からなのか『顧客ニーズに合っていない』からなのか『社員のスキルや意欲が低い』からなのかといった様々な要因が考えられます。やみくもにデータを分析することは、大きな労力を要し、時間もコストもかかるので、課題に対する要因を理解し、その要因を分析する為のデータを収集する必要があります。要因を切り分ける為の軸として、以下の3つが挙げられます。

1.業績

現時点での自社の状況や、売上高や購入者、流通などの要因を分析したい場合は、自社の業績に関するデータの分析が有効です。売上データや販売データ、営業活動のデータなどは、多くの企業で数値として管理されているものが多いため、分析の足がかりになる軸でしょう。業績の分析のみでは、商品や取引先の特定は可能でも、その詳細な要因まではわからないこともあります。例えば、商品ごとの売上高を分析し、売れる商品と売れない商品がわかりますが、なぜ売れるのか?といった詳細な理由までは分析はできません。売れる商品を特定できたら、更にその商品に対して、営業担当者のスキルなのか・地域柄のニーズが強いからなのか、商品自体が魅力的なのかといった、詳細な理由を知るためには、複数の要因を組み合わせて分析することが必要となります。

2.顧客

企業の利益は、顧客からもたらされるものです。ライフスタイルの変化に伴い、顧客のニーズも変化していきます。変化するニーズを理解する為には、顧客データの分析が必要不可欠です。そして、近年では『インサイト』から需要を作り出すマーケティング手法にも大きな注目が集まっています。『インサイト』とは、消費者本人でさえまだ気がついていない購買要求のことです。例えば、『旅行がしたい』というニーズがあり、なぜ旅行がしたいのか掘り下げると『リフレッシュがしたい』『世界遺産が見たい』『思い出を作りたい』『そこでしか買えないものがある』といった潜在ニーズに気付くことができます。インサイトはニーズとは違い、旅行先で『旅行がしたかったんだ』『リフレッシュしたかったんだ』と気付くような、商品やサービスを利用して初めてわかる隠れた欲求を指します。モノが売れない時代、ニーズを追うのではなく、ニーズを呼び起こすような戦略が必要です。インサイトを発掘するためにも顧客の環境や行動を軸に分析を行うことが有効でしょう。

3.社内環境

業務上の問題や従業員の貢献度等を把握したい場合は社内環境に軸をおきましょう。ベンチャーやスタートアップ企業は別として、『これが当たり前』という考え方が染みついてしまった企業にとって、社内環境に対する発見やイノベーションは容易ではありません。しかし、業務に費やす時間を計測したり、従業員の成績を数値化し、そこからデータ分析を行うことで、効率化を図れる業務や優良社員の成績に繋がる行動履歴が浮びあがってくるでしょう。また、従業員の働き方も多様化しておりますので、従業員のニーズを知り、高い満足度が得られることで、優秀な社員の外部流出を避け、新たな人材の確保に繋がります。

データドリブン経営の成功事例

ソフトバンクグループ株式会社

かつてのソフトバンクは、『つながりにくい』とのネガティブな評価を受け、顧客満足度を向上させる経営課題がありました。そこで、エリアや時間毎の接続率のデータの分析を行い、つながりにくいエリアを特定し、電波改善を行いました。計測装置による計測ではなく、パケット通信ができたかどうかのログを大手携帯会社3社のユーザーのスマートフォンから無作為に収集し、1日約2900万件、月間9億件のデータを収集・蓄積していきました。これによって、3社間での差異や、通勤ラッシュといった時間帯による通信状況差異などを見つけ出し、基地局を整備したことで、接続率ナンバーワンを実現することができました。ユーザーの電波改善のニーズから、地域データというマーケティングデータを活用した事例として挙げられます。

日清食品株式会社

カップヌードルやチキンラーメンなど、一度は聞いたことがあるカップラーメンを製造・販売している日清食品では、ボリュームゾーンである40~50代の年齢が上がり、シニア世代になっていくことでカップラーメン離れが起こる経営課題がありました。若年層に向けて施策を多く取り組んできたことによって『カップラーメンは若者が食べるもの』という概念が定着してしまい、60歳以上の購入が低迷している中、SNS等で積極的に情報を発信している『アクティブシニア』に着目をします。アクティブシニアのSNSを分析したところ、豪華の食事の写真の投稿が多いことがわかり、これまでの健康志向を打ち出した商品からふかひれスープやすっぽんスープといった贅沢感を打ち出した商品を開発しました。この商品がシニア層にもヒットし、販売7ヵ月で1400万食の売上を達成することができました。データ分析によって、シニア層でもおいしければカップラーメンを食べたいというインサイトを見つけ出し、上手く商品企画へ反映することができた事例です。

おわりに

ICT技術の進歩により、膨大なデータの収集・分析が専門職でなくともできるような時代へなってきました。しかし、分析結果を経営活動に活かすことができなければ、宝の持ち腐れとなってしまいます。経営状況を改善・更にステップアップできるようデータ分析を活かしてみてはいかがでしょうか。ありがとうございました。