初心者でも利用しやすいクラウドサービス「Amazon Lightsail」の特徴やEC2との違いを紹介

はじめに

クラウドサービスに精通している方であればAWS(Amazon Web Services)のサービスと聞くと、真っ先にAmazon EC2(Elastic Compute Cloud)やAmazon S3(Amazon Simple Storage Service)、Amazon RDS(Relational Database Service)等が思い浮かぶ人が多いのではないでしょうか。特にEC2やS3はAWSとしてサービス開始された2006年から提供されていた歴史の長いサービスであり、RDSであってもリリースされたのは2009年ですのでこの記事を執筆している2023年時点ではすでに15年前後継続して提供されています。

その後はリリース数にムラこそあるものの毎年新サービスが開始されており、現在においてAWSのサービス数は200を超えています。また2014年〜2022年までは毎年2桁数のサービスがリリースされているという状況です。このようなサービスの増加からもわかるようにAWSで対応可能な分野は着々と増えていますが、AWSで仮想マシンを利用するとなると依然としてEC2が選ばれることが多いです。

EC2はそのサービス名が広く知られていることと共に自由度が高く、企業の要望を組み込みやすいサービスであるため、選ばれることが多いのは当然かもしれませんが、その一方で初心者や経験が浅いエンジニアでは知識が追いつかず、管理・運用するにはハードルが高いという面も持ち合わせています。クラウドサービスはマネージド(ベンダー側が管理してくれる)ではあるもののセキュリティ面に関してはユーザー側でも適宜設定や対策を行う必要があるため、知識が不足している状態で自由度の高いサービスを利用することは、セキュリティ上のリスク増加にもつながってしまう可能性があります。

今回紹介するのは「Amazon Lightsail」というサービスですが、こちらも仮想マシンサービスの一つとなるもののEC2とはまた異なる特徴を持っています。この記事では「Amazon Lightsail」の特徴やEC2との違い、料金や無料枠について紹介します。AWSやクラウドサービスについて総合的に学習している方や、これからAWSで仮想マシンの導入を検討しているもののEC2を使いこなせるか不安に感じている方、段階的にAmazon Lightsail、EC2を利用したいという方はぜひご覧ください。

Amazon EC2はどんなサービス?

2023年現在はシステムの移行先、新システムの導入の際にはクラウドを優先するという「クラウドファースト」という考え方が浸透しており、小規模の企業やスタートアップ・ベンチャー企業だけではなく大企業や政府関連のシステムにおいてもクラウドサービスが利用されるということが珍しくありません。

しかし今のようにクラウドサービスが浸透する前はレンタル型のサーバーサービスが主流となっており、一つのサーバーをユーザーが占有する専用サーバーであったり、クラウドでいうPaaSのような仮想マシンサービスであったり、リソースを共有するサーバーサービスであったりと様々な形態で提供されていました。これらのサービスも実際の機器を所有する必要はなくネットワークを介して利用するため、そういった意味ではクラウドサービスとして分類しても間違いではないものの、現在のクラウドのようにサービス数が豊富とは言えず、月額・年額固定であることが基本で柔軟なスケーリングはできないというものがほとんどでした。またクラウドサービスにおいては他社のネットワーク上にデータを預けることとなるため、機密情報や個人情報を預けるのはセキュリティ上危険という見方が強く、利用範囲は限定的でした。

しかしながらAmazonが2006年に「AWS」を開始すると、MicrosoftやGoogleもそれに続きMicrosoft AzureやGCP(Google Cloud Platform)として次々に新たなサービスを展開していきました。それと同時に機能面はもちろん、セキュリティ面の向上も続けられて次第に多くの企業がクラウドサービスを利用するようになり、クラウド業界は従来のレンタル型サーバーを凌ぐ程にまで成長しています。

このクラウド業界の先駆けとも言える歴史あるサービスがAmazon EC2です。かつてのレンタル型サーバーはオンプレミスのようにサーバーやネットワーク機器、ラック等の購入や設置場所の確保、インフラ環境の構築という作業をせずともすぐに利用できるという便利さ、シンプルさを持ち合わせていましたが、 EC2も同じくそれらを必要とせず環境構築作業も大幅に省くことができ、簡単で素早く運用を始められる仮想マシンサービスです。

EC2ではCPU・メモリといったスペックやOSに関してはサービスとして提供されている範囲内で自由に選択でき、途中で不足した場合はサービスを停止することなく追加や削除が可能です。EC2における1台の仮想サーバーのことを「インスタンス」と呼びますが、複数のインスタンスが必要な場合もコンソール上から簡単に追加できるので高負荷や障害に備えた冗長化も容易です。また、オンプレミス環境で運用している場合は日々の監視やメンテナンス、障害対応を全て自社のエンジニアで担うことになりますが、EC2のようなクラウドサービスにおいてはベンダー側である程度受け持ってくれるため、それらに費やしていた作業工数分を別の業務等に使うことが可能となります。もちろん環境構築の作業も不要となり、機器の購入や場所の確保も不要となるため、それらによるコスト削減ができるのもクラウドサービスの大きなメリットです。なおベンダー側が受け持ってくれる管理範囲について、AWSでは「責任共有モデル」として公式サイト内に公表しています。特にセキュリティについてはユーザー側が設定や管理を行わなければいけない部分が多く、認識を誤っていると大きなセキュリティ事故に繋がる可能性もあるため、AWSを利用する際はあらかじめ確認しておくことをおすすめします。

AWSの代表的なサービスには無料枠というものが設けられており、限られた範囲ではあるもののその範囲内であればEC2等のサービスを無料で使い続けることができます。EC2の無料枠は、一部インスタンスにおいて月750時間までは無料で利用できるというものです。また、EC2も従量課金制であり課金対象が定められているため、対象となる機能を利用しない場合は停止や削除を行うことで不要な費用を払わずに済むようになります。EC2の料金体系については従量課金制の「オンデマンドインスタンス」の他、利用する分を事前に予約することで大幅な割引を受けられる「リザーブドインスタンス」、また特殊な「スポットインスタンス」という3種類が用意されています。

以上EC2について紹介しましたが、結局どういったサービスであるのか掴めない方もいるのではないでしょうか。実際EC2はこれといって用途が決められていないため、例えばWebサーバーとして利用しようと、機械学習システムの開発に利用しようと、データベースサーバーとして利用しようとユーザーの自由であり、いずれも可能となっています。ただしAWSにはストレージの「Amazon S3」やファイルシステムの「Amazon EFS」、リレーショナルデータベースの「Amazon RDS」といったようにそれぞれの役割に特化したサービスが別に用意されているため、EC2だけでシステムを運用するというよりは別サービスと連携して利用されることも多いです。以上を踏まえたうえで、今回のメインとなる「Amazon Lightsail」の特徴をみていきましょう。

Amazon Lightsailの特徴

Amazon Lightsailも仮想マシンの一つですが、その中でもVPS(仮想プライベートサーバー)に分類されるサービスです。レンタル型のサーバーサービスにもVPSは存在するので、もしそちらを利用したことがある場合は似たようなサービスと思っていただいて問題ありません。今回はVPSに馴染みがない方に向けて解説を続けます。

EC2は提供されるOSやスペック等をあらかじめ用意された中から選択することになるものの、その後利用するプログラミング言語やソフトウェア、アプリ開発等は自由に行えるサービスであるのに対し、Amazon Lightsailは利用範囲が限定されていて自由度の点では劣り、一般的なクラウドサービスで可能なスケーリングはできません。しかし目的のものさえAmazon Lightsailに含まれていればサービスの開始までの時間を短縮できる他、ITインフラやサーバー、ネットワークに関する知識が十分でなくても安全で簡単に運用ができるというメリットがあります。

なぜならAmazon Lightsailにはカテゴリごとに機能をひとまとめにした「パッケージ」というものが用意されていて、管理画面上で利用したいパッケージを選ぶだけですぐに環境構築ができるためです。なおAmazon Lightsailには主にWebアプリケーションやWebサイト、Webシステムの構築に特化したパッケージが用意されており、ストレージやファイアウォール、DNS、ロードバランサーといった機能が含まれています。またCMS(Contents Management System)として人気の高い「WordPress」の環境もワンクリックで構築可能です。

EC2において知識のなさは運用ができないだけではなくセキュリティ面においても致命的ということを前述しましたが、Amazon Lightsailではセキュリティ設定・権限設定を自動的に行ってくれるため、100%望み通りの設定にすることは困難であるものの知識不足の部分をカバーして安全に運用することが可能となります。なお、ファイヤーウォールへのルール追加やプロトコル・ポートによる制御設定はユーザー側で可能です。

スナップショット機能が簡単に利用できて自動化することが可能であるのもAmazon Lightsailの特徴です。EC2の場合はスナップショットを取得するだけではなくAMI(EC2のインスタンス作成用起動テンプレート)を作成したうえで新規インスタンスの作成を行う必要があります。一方のAmazon Lightsailでは自動スナップショットを有効にすることで、インスタンスやブロックストレージ単位のスナップショットが自動化(時間の指定も可能)されます。またAMIやインスタンスの作成を自ら行う必要もなくなります。

Amazon Lightsailは自由度が少ないと述べましたが、それでもコンソールでのSSH接続やパブリックIPアドレスの自動割当て、IPv6での接続、サーバーの停止・起動・再起動、監視や通知、ネットワークのアクセス制限(インバウンドのみ)、CDN(Contents Delivery Network、コンテンツ配信のために最適化されたネットワークサービス)の利用、スナップショットによるバックアップ、ディスク・メモリ・CPUの指定(構築後は変更不可)といった最低限のことは可能です。

さらにコンテナ化されたアプリケーションの実行が簡単に行える機能や、簡素化されたロードバランサーが利用できるようになっている他、MySQL やPostgreSQLといったマネージドのデータベース構築や、Linux、Windows向けのSSDを利用したブロックストレージあるいはオブジェクトストレージとして利用することも可能です。

EC2への移行について

Amazon LightsailにはEC2への移行も簡単にできるというメリットがあります。そのためEC2のスモールスタートとして選択されることもあり、ビジネスの規模拡大によってスペックや機能不足を感じた際、システム運用に関する十分な知識の習得ができた際にそのままEC2へ移行するという選択肢を持つことが可能となります。

EC2への移行はスナップショットの取得とエクスポートによって実施しますが、この時Amazon Lightsailで利用していたIPアドレスの変更は必須となります。

EC2に移行することでスケーリングや冗長化が可能となり、Amazon S3やAmazon RDBといったその他サービスとの連携も可能になるというメリットを得られることとなります。ただし自身で管理する範囲がAmazon Lightsailに比べて格段に増えることを忘れてはなりません。

Amazon Lightsailで選択可能なOSやアプリケーションについて

Amazon Lightsailで利用できるOSとしてはUbuntu、Debian、FreeBSD、OpenSUSEといったオンプレミスでも人気のLinuxディストリビューションの他、AWSオリジナルのAmazon Linux(Amazon Linux2)やWindows Serverの利用も可能です。Amazon LinuxはEC2等のAWSサービスに最適化されたLinuxOSで、たくさんのAWS APIツールやcloud-Init(インスタンスの初期化を自動化するLinuxのパッケージ) がプリインストールされています。また​​SSHキーペアの使用やリモートルートログインを無効化することによってリモートアクセスを制限しているOSとなります。

アプリケーションとしてはWordPress、Drupal、Joomla!、Ghost、PrestaShopといったCMSや、システム開発や運用・管理に便利なMagento、Redmine、Plesk、cPanel & WHM、Node.js、GitLab、LAMP、MEAN、Nginx、Djangoの利用が可能です。

料金・無料枠について

Amazon Lightsailの料金は仮想サーバーの種類(Linux/Windows)とそのスペック、コンテナのスペック、ストレージの種類(ブロック/オブジェクト)とそのスペック、マネージドデータベースのスペック、CDNディストリビューションのデータ転送量、ロードバランサーの利用有無、インスタンスとディスクスナップショット(手動および自動)の利用量によって決められます。その他のクラウドサービスはスペックや転送量等によってプラン分けされていないのに対し、Amazon Lightsailの場合はあらかじめプランが定められているのでおおよその使用量について予測をつけておく必要があります。逆に言えば、従量課金制のサービスであると前もって予算を立てるのが難しいというデメリットがありますが、Amazon Lightsailの固定料金という料金体系はその課題をクリアできると言えます。

EC2等の他のクラウドサービスに慣れていると忘れがちになりますが、Amazon Lightsailの場合はインスタンスをしてもしなくても料金は発生するという点は頭に入れておきましょう。

またAmazon Lightsailの中にはオールインワンの研究環境と言われ高性能のCPUやGPUを利用できる「Amazon Lightsail for Research」というサービスもあり、こちらを利用する場合は別途料金が発生します。なおLightsail for Researchにおいてはリージョンの選択が可能で、リージョンやスペック、転送量によって料金が変わってきます。Amazon Lightsail全体の具体的な料金については変動する可能性もあるため、実際に利用し始める前にAWSの公式サイトで確認することをおすすめします。

なおAmazon Lightsailの無料枠としては、1年間50GBのCDNディストリビューション、1年間5 GBのオブジェクトストレージバンドル利用がある他、3か月間一部コンテナやインスタンス、データベースのバンドルが無料で利用できるサービスも用意されています。

WordPressを構築する基本的な流れ

最後にAmazon Lightsailの利用例として、CMSのWordPressを構築する際の一連の流れについて紹介します。

まずはLightsailのインスタンスを作成する必要があるため、AWSマネジメントコンソールの「サービス」から「Lightsail」を選択して使用言語を選択したらLightsailのホームに移動します。

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プラットフォームの選択で「Linux/Unix」、設計図の選択で「WordPress」を選び、さらにインスタンスプランを選択しましょう。次の「インスタンスの識別」には自動で文字列が入力されていますが自分のわかりやすい名称に変更することをおすすめします。入力したら「インスタンスの作成」をクリックしてLightsailのホームに戻ります。しばらくすると「保留中」の表示が「実行中」となるので、変わったのを確認したらインスタンス名をクリックして「ネットワーク」のタブをクリックしてください。

デフォルトの状態ではパブリックIPに動的なIPアドレスが表示されているので、静的IPを利用する場合は「静的IPの作成」をクリックしましょう。「インスタンスへのアタッチ」の部分で作成したインスタンスを選択して「作成」をクリックするだけで静的IPが自動で割り当てられます。

ここまで完了したら実際にWordPressの利用に進みます。WordPressのダッシュボードにログインするためのパスワードを取得する必要があるため「接続」タブから「SSHを使用して接続」をクリックしてください。コンソールが立ち上がるので「cat bitnami_application_password」というコマンドを入力・実行するとパスワードが確認できるのでメモしておきましょう。

ブラウザを立ち上げてアドレス欄に「http://(取得した静的IP)/wp-admin」と入力してアクセスするとダッシュボードへのログイン画面が表示されるため、ユーザ名には「user」、パスワードにはメモしておいたパスワードを入力して「Log in」をクリックしてください。ダッシュボードの画面が表示されたら完了となります。その後は必要に応じてユーザー名・パスワード変更やドメインやSSLの設定、アクセス制限設定等を行いつつWordPressでホームページを作成しましょう。

以上は基本的な流れとなるのでテストで構築する場合はこの通りに進めていただいて問題ありませんが、実際に運用する場合は要件定義等に沿って各項目を任意に選択して構築を進めてください。

まとめ

今回見てきたようにクラウドの仮想サーバーにそこまでの自由度を求めない場合、知識や人材が不足している場合、利用するアプリケーションは限られていて開始までに時間をかけたくないという場合にはEC2よりもAmazon Lightsailの方が適しているということがわかっていただけたことでしょう。なおクラウドサービスの一つではあっても従量課金制ではない点、インスタンスを停止しても料金は変わらない点、スケーリングができない点等その他のサービスとは異なる点が多いので、もしAmazon Lightsailを利用することがあればあらかじめ仕様について正しく理解しておく必要があると言えます。

AWSには他にも似たような機能を持つサービスとしてDockerコンテナが利用できる「Amazon ECS」やコンテナをサーバーレスで実行できる「AWS Fargate」があり、これらを利用しても簡単にシステム稼働を始めることができますが、高度な知識を持たずともよりシンプルに仮想マシンサービスを利用したいとなるとAmazon Lightsailがおすすめです。ぜひ今回の記事を参考に、担当エンジニアや企業に運営に無理のない範囲でAWSを使いこなしてみてはいかがでしょうか。

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