AWSのサービスを組み合わせて有効利用。仮想サーバー「EC2」と仮想ネットワーク・インターフェース「ENI」について。

AWSとはどんなものか?

既にご存知の方も多いかもしれませんが、Amazonが提供しているのはインターネット通販だけではありません。AWS(=Amazon Web Services)というクラウドサービスも提供しており、AWSは2022年時点で世界最大の市場シェアを持つ大規模クラウドサービスの地位を築いています。

AWSが提供しているのは、いわゆる「クラウドコンピューティングプラットフォーム」と呼ばれるものです。クラウドコンピューティングとは、インターネットを介してデータセンターにあるコンピューターのリソース(ストレージ、コンピューティングパワー、データベースなど)を利用することを指しています。

AWSが想定するユーザー層とは?

AWSは全世界的に展開されているグローバルサービスで、日本や欧州、アメリカを含む世界中で利用されています。AWSのユーザーとして想定されているターゲット層は複数ありますが、代表的な想定ユーザー層として挙げられるのは、下記のようなユーザーです。

【1】初期投資を抑えながらも、スケーラブルなインフラ構築を望むスタートアップ企業。

【2】ITリソースの管理コストを削減し、本業のビジネスに経営リソースを集中させたい中小企業。

【3】データセンターの運用コストを削減しつつ、グローバルに利用できるインフラを柔軟に構築し運用したい大企業。

【4】アプリケーション開発やテスト、運用などの開発プロセス全体を効率化したい開発者。

【5】顧客のビジネススキームやニーズに合わせた提案を柔軟に行う必要があるITコンサルタント。あるいはシステムインテグレーター。

【6】データ解析や機械学習などの高度な技術を必要とする教育機関や研究者など。

AWSはユーザーに対して、コスト効率が高くスケーラブルなクラウドサービスを提供することを目的にしています。提供しているサービスは多岐に渡っており、仮想インフラ、仮想ストレージ、データベース、アプリケーション開発、データ分析や機械学習なども含まれます。

AWSの特徴

AWSにはどのような特徴があるのかをまとめてみましょう。

まず挙げられる特徴は「インフラの構築と運用が簡単になる」ということでしょう。従来は物理的なサーバーやネットワーク機器を調達し、自社内にサーバールームなどを設置。さらにシステムやネットワークの構築をして運用する必要がありました。しかしAWSを利用する場合は、Web上=クラウド上のコンソールやAPIを使って簡単に設定・操作ができます。

次に言及すべき特徴は「柔軟なコスト構造である」という点です。AWSでは、利用した分だけ料金が発生する従量課金制を採用しています。そのため、必要な時だけ必要とするサービスやリソースを使い、不要な時には利用しないという選択ができます。つまり「契約していても、使わなかったサービスやリソース分の料金は支払わなくても良い」ということなので、毎月のコストを抑えることが可能です。

グローバルなリージョンとデータセンターを持っていることもAWSの特徴です。AWSは世界中で多くの地域にデータセンターを設置しているため、ユーザーが体感するデータの転送速度にラグが少なく高速になっています。世界各地にデータセンターが設置されていることもあり、世界中どこで利用しても顧客はAWSのサービスを利用できるのです。

AWSを使う代表的なメリット5つ

世界中のユーザーから支持されているAWSですが、それだけ多くのユーザーが選ぶにあたって判断基準とされているメリットはどのようなものなのでしょうか?AWSを利用する代表的なメリットを5つご紹介していきます。

【1つ目のメリット:短期間でのインフラ構築が可能】

AWSでは、数分で仮想サーバー(EC2インスタンス)を起動し、必要なストレージやデータベースも迅速に構築できます。従来の物理サーバーによるインフラ構築よりも時間とコストを大幅に削減できます。また、AWSは自動スケーリング機能を提供しているので、アプリケーションの負荷に応じて自動的にリソースを増減可能です。これにより、アプリケーションのパフォーマンスを維持しながらコストを最適化できます。

【2つ目のメリット:障害に強い。高可用性のあるシステム構築が可能】

AWSは複数のアベイラビリティーゾーン(AZ)を提供しており、異なるAZ間でリソースを分散させることでシステム全体の堅牢性と可用性を向上させることができます。また、負荷分散や自動スケーリング機能を活用することで、急激なトラフィック増加にも対応可能です。

【3つ目のメリット:コスト効率が良い】

AWSの料金体系は「使用したリソースの分のみに課金される」従量課金制を採用しています。そのため、自社設備を抱えている場合に発生するネットワーク関連の固定費のように、余分な経営リソースを確保する必要がないことがメリットです。従量課金制の場合は必要な時に必要な分だけリソースを利用でき、その分のみに支払が発生するためコスト効率が向上します。また、リザーブドインスタンスやスポットインスタンスなど、コスト最適化のためのオプションも提供されていることにも注目です。

【4つ目のメリット:セキュリティ性が高い】

AWSはセキュリティを非常に重要視しています。そのため、AWSが保有する物理的なデータセンターのセキュリティやネットワークセキュリティは厳重に管理されています。また、データの暗号化、アクセス管理、監査ログなど、ユーザーがセキュリティを強化するための機能も充実しているのが特徴です。多くの国際的なセキュリティ認証も取得しているので利用者からの信頼は非常に高く、このことがAWSを利用する大きなメリットの1つだと評価されているのです。

【5つ目のメリット:グローバル展開が容易】

AWSは世界中にデータセンターを持つリージョンとアベイラビリティーゾーンを展開しているので、短時間でグローバルなインフラを構築することができます。また、異なる地域間でのデータ転送やバックアップを容易に行うことができ、グローバルビジネスの展開をサポート可能です。

AWSが多くの企業や開発者に選ばれるのは上記のようなことが理由です。クラウドコンピューティングの分野でAWSはグローバルスタンダードに近い立ち位置を確立しつつあるので、AWSに関する知識を持っておくこと自体がメリットだとも言えるでしょう。

AWSでできること

ここまで説明してきたように、AWSは単一のサービスということではありません。「クラウドコンピューティング」という大きな枠の中に、様々なサービスを内包するサービス全体の総称です。

では、AWSにはどのようなサービスがあり、それぞれ何ができるのでしょうか?

代表的なサービスとして「仮想サーバーの作成と運用」があり、これは「EC2」というサービスで利用できます。

「S3」「EBS」「Gacier」というそれぞれのサービスでは「ストレージサービス」を提供しており、「RDS」「DynamoDB」というデータベースサービスも展開されています。

「サーバーレスコンピューティング」を行うためのサービスとしては「Lambda」や「API Gateway」があり、機械学習用サービスとして「SageMaker」と「Rekognition」があります。さらに、ビッグデータの取り扱いやデータ分析そのものを行うためのサービスとして「Redshift」「EMR」「Kinesis」があり、セキュリティやアイデンティティ管理用サービスの「IAM」「WAF」「Shield」が提供されています。

このようにAWSにはクラウドコンピューティング、サーバーレスコンピューティングに関する様々なサービスがあり、ユーザーはこの中から自社に最適なサービスを選んで契約し、使った分の料金のみを支払うことでAWSのサービスを利用することになるのです。

EC2とは

クラウドコンピューティングの代表格ともいうべきものは「仮想サーバー」に関するサービスです。

仮想サーバーというのは、これまで一般的に運用されていた物理サーバーのリソースを、複数の独立した仮想環境に分割して利用できるようにするための技術です。ネットワーク上(=クラウド上)に、仮想化技術を使用して分割した複数の仮想マシンを設定することで、それぞれの仮想マシンが独自にOSやアプリケーションを実装・実行し、独立して動作できるようになります。

AWSにおいて、このような仮想サーバーサービスを提供しているのが「EC2」です。

EC2の概要。使用目的と用途について

EC2は「Elastic Compute Cloud」を略したAWSの仮想サーバーサービスです。クラウド上で柔軟にリソースを提供できるサービス形態になっていて、異なるそれぞれのユーザーが求める内容に応じて仮想サーバーを追加したり削除したりできます。柔軟なスケールアウトとスケールインができるという特徴を持っています。

EC2は、Webサイトの構築やアプリケーションのホスティング、データベースサーバー、開発・テスト環境など、様々な用途で使用されているサービスです。負荷に応じて自動的にリソースが増減するAuto Scaling機能が利用できるため、効率的な運用が可能になっています。

EC2は複数のインスタンスを起動してロードバランシングを行うことができるElastic Load Balancingや、複数のEC2インスタンスに対して一括でアプリケーションのデプロイや管理できるAWS Elastic Beanstalkなど、様々なサービスとの組み合わせで、より高度なシステムの構築を可能にします。EC2はAWSの中で最も代表的なサービスの1つですが、人気の理由としてはAWSがグローバルにインフラを整備しており、世界的に安定した環境を提供できているために高い可用性や耐久性が実現されているということが挙げられます。

ENIとは

ENIというのは(Elastic Network Interface)の略で、AWSの仮想プライベートクラウド(VPC)内のEC2インスタンスにアタッチされ、ネットワーク通信を行うための仮想的なデバイスとして機能するサービスです。

ENIは、VPC内のEC2インスタンスに複数のネットワークインターフェースを提供できるので、EC2インスタンスは複数のサブネットに接続し、異なるセキュリティグループを持つことができます。また、ENIは、EC2インスタンスのネットワーク接続を柔軟に管理可能です。EC2インスタンスの起動時に自動的に作成されるので、必要に応じた追加ENIの作成もできます。

ENIの使用目的と用途、及びメリット

ENIの使用目的は、EC2インスタンスにおいて柔軟なネットワーク接続を提供することです。その主な用途について簡単に解説していきましょう。

アプリケーションの分離

ENIを用いて1つのEC2インスタンスに複数のIPアドレスを割り当てることで、異なるアプリケーションを同じインスタンスで運用します。これにより、リソースの効率的な利用が可能です。また、それぞれのアプリケーションに対して独立したネットワーク設定ができます。

セキュリティの強化

ENIを使って独立したネットワークアクセス制御を行うことで、アプリケーションごとに適切なセキュリティ設定を適用できます。セキュリティグループやネットワークACLを利用し、アクセス制御や通信のフィルタリングを可能にします。

フェイルオーバーと高可用性

ENIはEC2インスタンスとは独立して存在するため、インスタンスが停止しても、ENIを別のインスタンスにアタッチして運用を続けることができます。これにより、フェイルオーバーを実現し、サービスの高可用性を確保できます。ENIは複数のIPアドレスを持てるので、1つのENIに対して複数のセキュリティグループを設定することも可能です。これにより、1つのインスタンスに複数のアプリケーションを実行する場合でも、各アプリケーションに対して異なるセキュリティグループを設定できます。

トラフィック監視

ENIに対してVPCフローログを設定することでインスタンスへのトラフィックを監視し、パフォーマンスの最適化や異常検知を行えます。これにより、セキュリティ対策や運用効率の向上が期待できます。VPCフローログはインスタンスに対するネットワークトラフィックの詳細なログを取得できるので、セキュリティインシデントの調査やトラブルシューティングに有効です。AWS CloudTrailやAWS ConfigなどのAWSの監査ログと組み合わせて使用することで、より総合的なセキュリティ監視も可能になります。

マルチホームインスタンスの実現

複数のENIを同じインスタンスにアタッチすることで、複数のVPCやサブネットにまたがるマルチホームインスタンスを実現可能です。これにより、複雑なネットワーク構成でも柔軟な通信が可能になります。複数のENIを使用することは異なるセキュリティグループの適用も可能にし、結果的にセキュリティの向上にもつながります。複数ENIの使用は、負荷分散や冗長化の実現も可能にするので、例えばWebサーバーとデータベースサーバーを分離し、負荷分散を行うことも可能にします。

ロードバランシング

複数のENIを持つEC2インスタンスに対して、AWSのロードバランシング機能を利用することでトラフィックの分散が可能となり、アプリケーションのパフォーマンス向上や冗長性確保が実現できます。

インスタンス移行

ENIはEC2インスタンスをまたがるアタッチ&デタッチが容易に行えるので、インスタンスのアップグレードやリプレイスがスムーズに行えます。このような特徴は、運用中のシステムに影響を与えること無しにインフラの変更や更新を可能にします。また、ENIはセキュリティグループやネットワークACLなどのネットワークセキュリティ機能を適用できるのでセキュリティの強化が可能です。セキュリティを強化することにより、複数のアプリケーションやサービスを同じEC2インスタンス上で実行できるため、リソースを効率的に利用できます。

ENIを活用することで、上記のような用途でネットワークの柔軟性やセキュリティおよび高可用性を向上させることができ、EC2インスタンスの運用を効果的かつ安全に行えます。特に、クラウド環境でのアプリケーション運用やシステム構築においては、ENIの活用がとても重要な役割を果たすことになります。ENIを適切に活用することで、AWS環境におけるネットワーク管理やアプリケーション運用の柔軟性、セキュリティ、高可用性を大いに向上させることができるのです。

ENIのメリット

ENIのメリットとして代表的なものは、「複数のIPアドレスを割り当てられる」という点です。この機能により、1つのEC2インスタンスで複数のアプリケーションを運用することが可能になるため、効率的なリソース管理が実現できます。また、ENIはEC2インスタンスと独立して管理できるため、インスタンスを停止してもENIは別のインスタンスにアタッチして利用を続けることができます。これが高い可用性を維持したままネットワーク設定の変更を可能にし、同時にENIの大きなメリットになっています。

ENIとEC2の相乗効果

複数のネットワークインターフェースを提供できるENIとEC2を組み合わせることは、様々な相乗効果を生み出します。

使用目的と用途の項目でもご紹介しましたが、相乗効果の1つとして挙げられるのが「セキュリティの向上」です。ENIを用いてプライベートIPアドレスを割り当てることで、インターネットから隔離された安全なネットワーク環境を構築できるようになります。また、ENIごとにセキュリティグループを設定できるので細かいアクセス制御が可能です。複数のENIを持つEC2インスタンスに対して、AWSのロードバランシング機能を利用することで、トラフィックの分散が可能となり、アプリケーションのパフォーマンス向上や冗長性確保が実現できます。

具体的な運用方法について

EC2とENIの組み合わせによる具体的な運用方法をいくつかご紹介していきましょう。

プライマリとセカンダリENIの利用:

シングルEC2インスタンスにプライマリENIとセカンダリENIをアタッチし、異なるサブネットやセキュリティグループを利用してアプリケーションを運用できます。これにより、インターネットへのアクセスとプライベートネットワーク間で通信を分離し、セキュリティを向上させることができます。

インスタンス間でENIを移動

1つのENIを複数のEC2インスタンス間で移動させることで、フェイルオーバーやインスタンスのアップグレードをスムーズに行うことができます。障害が発生した際にENIを別のインスタンスにアタッチすることで、ダウンタイムを最小限に抑えることができます。

トラフィックの監視と分析

ENIにVPCフローログを設定してEC2インスタンスへのトラフィックを監視し、パフォーマンスの最適化や異常検知を行うことにより、システムの運用効率やセキュリティ対策が向上します。また、VPCフローログはネットワークトラフィックの可視化に役立ち、セキュリティインシデントの追跡やトラブルシューティングにも効果的です。VPCフローログはAWS CloudTrailとも統合できるので、ネットワークトラフィックとAPIアクティビティの両方を同時に監視できます。これにより、より包括的なセキュリティ監視が可能になります。

ネットワークアプライアンスの実装

ENIを利用することで、EC2インスタンスをネットワークアプライアンスとして運用できます。具体的には、ファイアウォール、WAF(Web Application Firewall)、IDS(Intrusion Detection System)などのセキュリティ機能や、プロキシ、VPN、ロードバランサーなどのネットワーク機能を実現可能になります。また、ENIを利用することでEC2インスタンスに複数のIPアドレスを割り当てることが可能です。これにより、1つのEC2インスタンスで複数のアプリケーションを実行したり、複数のドメイン名を扱ったりできます。さらに、ENIを利用することでEC2インスタンスを複数のサブネットに跨がって配置できるため、高可用性や耐障害性を向上させることも可能です。

まとめ

ここまで、EC2はAWSが提供するクラウドコンピューティングサービスで、仮想マシン(インスタンス)を作成し、計算リソースを柔軟に利用できるものだということをご紹介しました。また、仮想ネットワークインターフェースであるENIが、EC2インスタンスにネットワーク接続機能を提供できることも解説しています。EC2とENIは密接に関連しており、インスタンスのネットワーク設定やトラフィック管理に利用されます。それぞれのサービスはインフラの構築・運用やネットワーク設定の柔軟性向上に寄与しています。ここまでご説明してきた運用方法を活用することで、ENIとEC2の組み合わせによりAWS環境におけるネットワーク管理やアプリケーション運用の柔軟性、セキュリティ、高可用性を大いに向上させることが可能です。適切な運用方法を取り入れることで効果的なクラウド環境を構築できるようになります。この記事でご紹介してきたような具体的な運用方法を理解し実践することで、経験の有無に関わらずEC2とENIを活用して効率的かつ安全なクラウド環境を構築できるでしょう。

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