クラウドのメディア変換サービス:Amazon Elastic Transcoder
はじめに
これまで、メディアファイルの変換には次の3つの理由で手間や費用がかかっていました。
- 高価で、維持や設定に手間のかかる変換ソフトウェアの購入と管理が必要
- 各種デバイスに合った出力を作成するために、エンドユーザーの再生環境に適した変換設定を繰り返しの試行錯誤で見つける(コンピューティングリソースの無駄が発生)
- 従来のエンコーディングソリューションでは、ビジネスニーズに応じたスケールアップ/ダウンができなかったため、必要な容量を事前に見積もって用意する(過大な見積もりによる投資の無駄や、過小な見積もりによるエンコーディングジョブの遅延)
これらの問題を解決してくるサービスが、Amazon Elastic Transcoderです。
Amazon Elastic Transcoderとは
Amazon Elastic Transcoderは、クラウドのメディア変換サービスです。高度なスケーラビリティ、使いやすさ、高い費用対効果を実現する設計で、開発者や企業は、メディアファイルをその元のソース形式からスマートフォン、タブレット、PCなどのデバイスで再生可能なバージョンに変換することができます。
Amazon Elastic Transcoderのメリット
開発者は、ウェブベースのコンソール、サービスAPI、またはSDKを使い、入力ファイル、トランスコーディング設定、出力ファイルを指定するトランスコーディングジョブを作成することができます。これにより、得られるAmazon Elastic Transcoderのメリットは次の5つです。
- 基本のトランスコードソフトウェアの購入、設定、管理の必要がなくなります。
- 各種デバイス向けの事前に定義されたプリンセットが用意されているため、試行錯誤によりデバイスごとに適切な設定を探す必要がなくなります。
- 作業負荷に応じて自動的にスケールアップ/ダウンするため、容量を無駄にすることなく、ジョブ完了までの待機時間を最短にできます。
- Amazon Elastic TranscoderはAWSマネジメントコンソール、サービスAPIおよびSDKから利用できるので、独自のアプリケーションやサービスに変換を組込むことができます。
- Amazon Elastic Transcoderのパイプライン機能は、各種シナリオ用のパイプラインを設定し、必要なときに必要な方法でファイルを変換することができるため、作業負荷の急増にも効率的かつスムーズに対応できます。
また、Amazon Elastic Transcoderには、上記の他に次のようなメリットがあります。
他のAWSのスケーラビリティとフレキシビリティを活かした構築
・Amazon EC2
トランスコーディングジョブは、Amazon EC2で実行されます。Amazon EC2のスケールにより、大規模な変換ジョブも迅速かつ確実に完了することができます。
・Amazon S3
Amazon Elastic Transcoderは、Amazon S3に保存されたコンテンツを処理するので、ライブラリのサイズを問わず、永続的でコスト効率のいいストレージを利用できます。
・Amazon SNS
変換ジョブのステータスをAmazon SNS経由で受け取ることができます。
上記の他に、Amazon DynamoDB、Amazon SWFなどとの連携も可能です。
高い費用対効果
Amazon Elastic Transcoderの料金モデルは、コンテンツの再生時間をベースとしており、変換対象メディアの出力の長さ(分単位)で課金されます。課金の例を以下に示します。
変換元のファイルが30分で変換後のファイルが20分の場合
20分の変換処理に対して課金されます。
変換元が5分の2つのファイルをつなぎ合わせて、10分のファイルを出力する場合
10分のトランスコーディングに対して課金されます。
Amazon Elastic Transcoderには基本料金、月単位のコミットメント、長期契約、初期費用などはありません。
セキュア
メディアアセットは、サービス利用者のAmazon S3バケットに保存され、アクセスはAWS IAMロールを通じて許可されるため、サービス利用者がコンテンツのコントロールをすることができます。これにより、現在のセキュリティやアイデンティティフレームワークにシームレスかつ容易にに組込むことができます。
シームレスな配信
コンテンツの保存、変換、配信までの作業を、簡単な1ステップの処理で行うことができます。こちらを実行するには、Amazon Elastic Transcoderの他に、次の2つを使用します。
- Amazon S3
- Amazon CloudFront
エンドツーエンドのメディアソリューションの作成
Amazon Elastic Transcoderと他のAWSを統合することで、以下のようなメディアソリューションを作成することができます。その例を役割ごとに示します。
- Amazon Glacier:マスターコンテンツを保存する
- Amazon Elastic Transcoder:マスターコンテンツを配信用のレンディションに変換する
- Amazon S3:変換したレンディションを保存する
- Amazon CloudFront:レンディションをインターネット経由で大規模にストリーミングする
- Amazon CloudWatch:トランスコーディングワークフローの状態をモニタリングする
Amazon Elastic TranscoderとAWS Elemental MediaConvertの比較
Amazonが提供する動画のエンコードを行うサービスは、Amazon Elastic TranscoderとAWS Elemental MediaConvertがあります。お互いに一長一短のため、使用目的を把握した上で利用するサービスを選択する必要があります。お互いの「できること」と「できないこと」、料金を以下に示します。
できること
<Amazon Elastic Transcoder>
- マルチデバイスで見れる動画ファイルに変換する
- 動画変換時に動画に写し込まれる小さな図案や文字の挿入する
- サムネイル画像の自動再生を行う
<AWS Elemental MediaConvert>
- 動画の結合をする
- 別の動画の音に差し替える
- 動画のノイズを軽減する
できないこと
<Amazon Elastic Transcoder>
- 動画結合などの高度な編集をする
- H.265へ対応させる
- エンコード結果をSNS以外へ送信する
<AWS Elemental MediaConvert>
- 動画ファイルの暗号化のキーにAWS KMSを利用する
- WebM動画の作成をする
- アニメーションGIFを作成する
これまで、AWS Elemental MediaConvertは動画を回転させる変換に非対応でしたが、2019年2月のアップデートにより対応できるようなりました。
利用料金
こちらは、東京リージョンの比較になります。AWS Elemental MediaConvertは、ワークロードと動画のトランスコーディングによって、オンデマンド料金とリザーブド料金の2種類ありますが、ここでは、オンデマンド料金を比較対象とします。
- Amazon Elastic Transcoder(720p以上):0.034 USD/分
- AWS Elemental MediaConvert(HD・30~60fps):0.0212 USD/分
上記をまとめると、
- Amazon Elastic Transcoderは、WebM出力、MP3オーディオのみの出力、アニメーションGIFの出力などを目的とする場合
- AWS Elemental MediaConvertは、コスト面や最先端フォーマットへの対応できるといった利点があるため、Amazon Elastic Transcoder特有の出力を必要としない場合
といったように目的に応じて、使い分けが必要です。
Amazon Elastic Transcoderの使い方
動画ファイルを変換するまでの手順を示します。
1. Amazon S3バケットの作成
Amazon S3のマネジメントコンソールを開いて、変換したい動画のアップロード用と、変換後の動画保存用のAmazon S3バケットを作成します。
2. Amazon S3バケットへファイルのアップロード
アップロード用のAmazon S3バケットに変換したい動画をアップロードします。
3. Amazon Elastic Transcoderのパイプラインを作成
トランスコーディングパイプラインを作成し、次のものを指定します。
- アップロード用と変換後の動画保存用のAmazon S3バケット
- ストレージクラス
- AWS IAMロール
4. トランスコーディングジョブを作成
ここでは次のものを指定します。
- トランスコーディングパイプライン
- 変換元と変換後の動画ファイル名
- トランスコーディングプリンセット(定義済みのトランスコーディングプリンセットから選択するか、独自のカスタムトランスコーディングプリンセットを作成します。)
オプションでサムネイルやフレームレート、解像度も指定できます。
以上の手順によって、動画ファイルの変換ができます。
まとめ
本記事では、Amazon Elastic Transcoderのメリットや、AWS Elematal MediaConvertとの比較、使い方について解説しました。Amazon Elastic Transcorderは、費用対効果が大きく、使いやすいサービスです。